庶民の味、焼鳥の歴史
いまの焼鳥の原型ができ上がったのは江戸時代とみられている。串に刺した焼鳥が文献に登場したのもこの時代だ。その鳥が鶏かどうかは不明であるが、おそらく野鳥だろう。鶏は長年、神にゆかりのある鳥として崇められ、愛玩用、観賞用の鳥として飼われており、食用としては禁止されていたからだ。
幕末から肉食が解禁となった明治には鶏を使った「鳥鍋」がブームになった。しかしこの鳥鍋はかなりの高級料理であったようで庶民にはなかなか手が出ない。そこで登場したのが焼鳥屋台である。鳥鍋で使われなかった端肉や内臓を集めて串に刺して焼く屋台は、庶民の味方としてじわじわと人気が高まっていった。
大正、昭和は人々が鶏肉の美味しさに目覚めた時代であり、いまに続く焼鳥屋のスタイルを確立させた。そして第2次世界大戦後の闇市という特異な状況下で焼鳥屋台は一気に庶民のものになった。これは米国からのブロイラー導入のおかげである。ブロイラーは若鶏で、高温短時間の加熱でも柔らかくジューシーに焼きあがる。なにより成長が早く大量に安定供給できるので安い。どんどん仕入れてジャンジャン焼いて安く提供できる。それでいて美味しい。
ところがブームにも陰りがみえはじめ、肉が柔らかく、淡泊すぎるとの声も出てきた。「昔食べた鶏の味が懐かしい」という言葉も聞かれるようになる。そんな声に応えるように、地鶏、銘柄鶏が登場する。適度な弾力があり、深みのある味わい、その鶏で勝負しようというこだわりの焼鳥屋が多く出現した。日本酒や焼酎、ワインにこだわる焼鳥屋も多く、いい酒を基準に店を選ぶ人も増えてきた。その一方で、煙をモクモクさせながらコップ酒とビールのみ、みたいな昔ながらの焼鳥屋も健在だ。
室蘭やきとりと美唄やきとり
北海道の室蘭市、美唄市は、福島県福島市、愛媛県今治市、山口県長門市、福岡県久留米市とならんで日本7大「やきとり」の街と呼ばれる。
室蘭やきとりの特徴は鶏肉ではなく豚肉を使うこと。理由は昭和の初めまでさかのぼる。当時は軍靴の材料として豚の革の需要が高まっていた。このためか鶏肉よりも豚肉が安価に手に入り、豚肉を串に刺して焼く屋台が多かった。製鉄で栄えた室蘭で愛されたこの串が原型で、甘みのあるタレと洋からしを付けて食べられている。近年では、豚肩ロース肉の代わりに、豚トロやサガリなど他の部位を使ったり、タレではなく塩焼きで提供する店もある。
一方の美唄やきとり。発祥は昭和30年(1950年前半)ごろに美唄で焼鳥屋台を営んでいた三船福太郎が考案したといわれている。当時、焼鳥店では精肉以外の内臓や皮を廃棄していたが、それを見てもったいないと思った彼は内臓を使った「モツ串」を売り出した。その「モツ串」は炭坑労働者をはじめとした地元の人から人気を博し、それが広まっていったといわれている。美唄やきとりは、鶏の内臓、皮、内卵などのさまざまな部位を1つの串に刺して焼いた「モツ串」のことをいう。
室蘭やきとりと美唄やきとりは、長ネギではなくタマネギを使用するのも独特。その理由は北海道がタマネギの産地としてよく知られ、長ネギよりも安価で質のいいタマネギが手に入るからだ。
おでんの歴史
おでんのルーツは室町時代に流行した「豆腐田楽」。その後、江戸時代には庶民に愛され、やがて煮込みおでんへと進化。屋台や居酒屋で食べる料理から家庭で食べる料理へと変化し、おでんは定番料理となった。
1955年(昭和30年)、おでんのイメージとして描かれたのがマンガ「おそ松くん」に登場する「チビ太のおでん」。3種の異なるおでん種が串に刺さっていることと、その順番が上から三角、丸、四角であることだ。この組み合わせはおでんを象徴するアイコンとして定着した。
味つけにしても、おでん種にしても、変化が少ないと思われがちだが、近年急激に進化を遂げている。ひと品ずつキレイに盛りつけた懐石風おでん、トマトやブロッコリーなど野菜豊富な健康おでん、夏に楽しむ冷やしおでん、コンビニエンスストアでも広く扱われるようになった。
そして、静岡風や名古屋風などご当地おでんブームが到来した。日本人の食生活に深く根付いた「おでん」は地域によって特色がでるのが面白いところ。ダシや味つけ、具材などに名産を使ったご当地ならではのおでんが全国にたくさんある。北海道では、昆布の風味豊かなダシに、フキやワラビなどの山菜、ツブやホッケのつみれ、タラの白子、ジャガイモなど道産食材が多く使われている。見た目は濃厚だが塩分はいたって控えめ、さっぱりとした口あたりで旨みたっぷり。冬に食べたくなる熱々のおでんだが、緯度が高い北海道では夏に味噌おでんがよく食べられている。
代表的なおでん種は大根、たまご、ちくわ、こんにゃく、はんぺんなど。関東、関西でダシが違うのは有名。静岡・島根・鹿児島は3大ご当地おでんとして知られる。
おばんざいとは?
おばんざいとは江戸時代に生まれた言葉で、四季折々の京野菜や乾物を使ってつくる京都の家庭料理のこと。聖護院大根や鹿ケ谷かぼちゃなど旬の京野菜をメインに使い、「煮る・茹でる・和える」といったシンプルな調理方法でつくる。食材を活かした味付けで旬の野菜を用いることから、ヘルシーフードとしても知られている。全国的に広まったのは1970年代から80年代にかけてのこと。京の食文化が無形文化遺産に選定され、より多くの人に認知されるようになった。
おばんざいは、京都で日常的に食べられているおかずをさす。本来は京都限定の言葉ながら、その響きの良さからか、お惣菜や家庭料理を表す言葉として使用される。
母の手料理のような、どこか温かみのあるおばんざい。近年ではそのイメージから人気が高まっており、おばんざい専門店や看板メニューとして提供する店が増えている。 ススキノでいうおばんざいは、料理人や女将がつくる家庭的なお惣菜。例えば肉じゃが1つとってしても、そこにはプロならではのひと手間と工夫があり、やはり家では真似しがたい。一品ひと品愛情を込めてつくったおばんざいと旨い酒、そして和服姿の美人女将が笑顔で迎えてくれる。