すすきの通信のロゴ
すすきの飲食店クーポン情報サイト
お気に入りのロゴ
お気に入り

千歳鶴の新しい蔵を訪ねて〜世界に誇る酒造り

この冬、「伝統的酒造り」がユネスコの無形文化遺産に登録された。 日本の酒造りが世界的な評価を受けるなか、札幌唯一の酒蔵「千歳鶴」の魅力に迫る。

厳冬の時季、札幌唯一の酒蔵では酒造りが盛んに行われている。その酒蔵とは、「千歳鶴」で名を馳せる日本清酒。創業は1872年(明治5年)と、北海道で現存する酒蔵としては最古の存在で、かつての最盛期には全国の並居る4,000蔵で7位(醸造量約10万石 ※1石約180L)を記録し、全国新酒鑑評会でも全国屈指の金賞受賞歴を誇っている。

仕込み水は酒の味を決める大切な要素のひとつ。日本名水百選といわれる藻岩山系伏流水。この雪清水が豊かに流れる札幌市内中心部の豊平川に面した地で、地下60メートルから汲み上げる良質の硬水を使用し、地産地消をモットーにした酒造りを行っている。看板銘柄の「千歳鶴」はさらりとした飲み口とキレの良さで人気を博している。

その日本清酒に新蔵が誕生した。建物は鉄筋コンクリート造2階建て、延べ床面積は約363坪(約1200㎡)。2023年(令和5年)3月から稼働を始め、現在は最大で30万リットルの生産が可能となっている。道内の酒蔵を手掛けた建築事務所アトリエオンドが設計した。

建設は150周年記念事業の一環として、前年の2022年(令和4年)に着手。1959年(昭和34年)の当時創立満30周年記念事業として建築された「丹頂蔵」以来、64年ぶりの新蔵の完成を目指した。

新蔵の計画は、国内最大規模の酒蔵だった「丹頂蔵」が、60年以上経過し老朽化を迎えたこと、そしてなによりも代々守り続けてきた北海道・札幌の地を拠点として、日本全国、さらに世界中の人々に広く味わってもらいたいという想いから始まった。建設地は、札幌市内はもとより北海道内の候補地の中から検討した結果、日本酒造りの3大要素の1つである良質な水がなくてはならないということから、同社敷地内が選ばれた。

新蔵の建設は決して容易ではなかったという。なにもかもが白紙の状態からのスタートだった。設備規模や設備機器の選定、製造ラインのレイアウト、搬入スケジュールに至るまで深い思慮を重ねていった。

そうした中、6代目杜氏は試行錯誤の末に2枚のイメージ図から思いを巡らせる。建物の規模をよりコンパクトにして、製造しやすい環境造りに重点を置きながら、より魅力的な酒造りを行う酒蔵としての新たなる挑戦と位置づけ、建築士や施工側と通例では考えられない頻度での打ち合わせを行いながら、新製造棟の建設は始まった。

デザインにもこだわりを持ち、同社の精神や文化を伝えながら、真摯なものづくりを表現する独自性を大切にした。また、麹室には良好な環境を維持しつつ耐久性にも優れた杉を採用するなど自然の温かさに包まれた空間となった。そして建築基準法や衛生関連などの法律を遵守しながら、約7ヵ月という極めて短期間の工期で完成した。

「新蔵は年間を通し、安定して日本酒を製造できる最新の設備を備えています。これからは高品質の日本酒にラインナップを絞り、消費が伸びる海外市場へと切り拓いてまいります」(商品企画部・金野副部長)。


  • 64年ぶりに誕生した新しい酒蔵は、1959年(昭和34年)に稼働した「丹頂蔵」の隣接地に建設。製品倉庫の一部に使っていた貯蔵タンクなどを解体し、その跡地を利用した

四季醸造

12月は年末年始を目前に日本酒の出荷作業がピークを迎える。酒造りは寒い冬の時期に醸造される「寒造り」が有名。米の収穫時期が秋から始まることや、寒い時期は温度管理がしやすく菌の繁殖がしにくいなどの理由から主流となっていた。

新蔵では、四季醸造が可能だ。冬の寒い時期だけでなく、春・夏・秋・冬行う。真夏の7〜8月の機械のメンテナンスを除き、外気温に左右されず1年中安定して酒造りができる。また、新蔵は純米酒に特化した酒蔵だ。酒造りには低い気温が不可欠であり、特に純米大吟醸酒や純米吟醸酒といった吟醸造りをするときには気温が一定して低くないと品質を安定させるのが困難となる。それを可能にしたのが新蔵の精密な温度管理だ。最新の空調設備を導入し、年間を通じて温度を一定にする、まるで蔵全体が巨大な冷蔵庫の様相だ。麹造り、酒母造り、もろみの仕込み、搾りの順番で日本酒は造られる。豊潤な香りが漂う仕込みタンクでは1ヵ月以上かけてじっくりと純米酒の発酵が進んでいく。

1年中酒を仕込むということは、1年中新酒ができるということ。四季醸造を行うことでいつでもフレッシュ感のある酒を提供する。「フレッシュな味わい」、「若々しさがある」などと表現されるが、心地よいほろ苦さや、荒々しさなどが感じられるのが特長。すっきりとしていて軽やかな印象を与える。まさに1年を通して常にフレッシュなしぼりたての新酒が楽しめる。1年分の仕込みをまとめて行う寒造りと比較して1回の仕込みの量を少なくできるのも利点で、1つのタンクごとに仕込んでいるため、ニーズに合わせた新銘柄や季節ならではの限定酒をあらゆるタイミングで投じることができるようになった。

新蔵での製造・貯蔵・品質管理まで酒造りのすべてを統括しているのが、現7代目竹花杜氏。歴代の杜氏が生み出したオリジナルの“三段仕込み濃厚製法”を用いて微生物の活動を活発化させることで発酵を促し、米本来の味わいを表現することが難しいとされる北海道の酒造好適米のポテンシャルを最大限に引き出している。


  • 米を洗い水を吸わせるところからが重要な工程。米の脂分は不要のため、まずは外側を削り、中心の「心白(しんぱく)」といわれる部分を取り出す

  • 1階ではもろみ管理と搾り、2階では製麹(せいぎく)と酒母(しゅぼ)管理が行われる。奥にある階段を上った先に麹室がある

 

  • タンクに蒸米と麹、水を入れ、酵母を増やしていく。仕込んだ後は約1ヵ月以上かけてじっくり発酵。発酵を終えると、もろみから生酒を搾る上槽という工程に移る

  • 新しい蔵は、1階に洗米・浸漬室、蒸米室、仕込タンク、上槽を行う圧搾室、2階には麹室がある

 

  • 上槽、素濾過を経て、瓶詰工場のガラスに覆われた衛生的なエリアで冷酒瓶詰め充填し、パストライザーにて火入れする

原料となる米にも注目

 「千歳鶴」では、特に良質な酒米を栽培する新十津川町の契約農家により丁寧につくられ厳選された北海道産の酒造好適米を使用。その産地は米どころ・新十津川の中でも特に良質な酒米ができる学園・吉野地区に限られている。高い品質のお米が育つポイントは、すぐそばを流れる清流・徳富(とっぷ)川。かつての氾濫で山から肥沃な土壌を運んできた上、そのキレイな水も稲作に適しており、さらにその地区一帯は両側に山もあるため冷たい風が吹いても田の上を通りすぎ、穂に風がそれほど当たらないのも育成においてプラスに働く。新十津川町の環境は最高ランクの山田錦が育つ兵庫・吉川エリアとよく似ているといわれ、水はけの良さも抜群。新鮮な水が循環し土の中に浸透すると、酸素が根に供給され稲もすくすくと育っていく。

「千歳鶴」で使う酒米は2種類。約20年前に誕生し、品質の向上や種類の多様化が進む北海道の酒造好適米「吟風」。親にきらら397、八反錦×上育404号の交配種。米の中心部にある心白が大きくはっきりしているため、芳醇な酒質になりやすい。北海道を代表する酒米であり、2000年(平成12年)に誕生したのをきっかけに北海道の酒米が全国へ広がる走りとなった。そして「きたしずく」。親に吟風を持ち、片方は雄町×ほしのゆめ。粒が大きく冷耐性も優れた北海道の酒米として2014年(平成26年)に誕生した。雑味が少なく柔らかくすっきりとした酒質となる酒米で、吟風のように心白出現率が高い。

北海道屈指の水質を誇る仕込み水にこだわる。札幌という都心に建つ蔵だが、すぐ側を流れる豊平川の伏流水は北海道屈指の水質を誇り、創業当時から長年酒造りを支えてきた。札幌南部に連なる緑豊かな山々が水源の豊平川の伏流水が100年、200年といった長い時の中でゆっくり地下へ浸み込み、岩盤層を通り抜け、濾過されながら地中のミネラル分を吸収。この良質な仕込み水が千歳鶴の背骨となっている。

 

  • 充填された一升瓶を担当者が厳重にチェック。冷却、ラベル貼り、箱詰めといった複数の工程をスピーディーかつ安全に行う

  • 従業員が充塡を済ませた一升瓶に傷やヒビがないかを厳しく確認、瓶詰めされたばかりの日本酒を出荷用の箱に入れる作業に追われる

 

  • 当時国内最大規模で建設された「丹頂蔵」、現在は原酒の保存に活用されるのみとなっている

  • 仕込み用のタンクがズラリと並ぶ、一時10万石を誇っていた丹頂蔵だがいまはもう可動しておらず静寂に包まれている

 

  • いまもなお神聖な雰囲気が漂う丹頂蔵の麹室。かつては麹菌を守るために外部の人間は立ち入りを許されなかった

  • 全国新酒鑑評会でも14年連続金賞受賞を達成、また、北海道新酒鑑評会では毎年金賞を受賞し、吟醸造りの実力は全国でもトップクラス

日本清酒の歴史

日本清酒は、石川県能登から来道した創業者・柴田與次右衛門が造り酒屋「柴田酒造店」を開店したのがはじまり。数年後には清酒を造りはじめたと伝えられ、北海道の酒造業の幕を開けた先駆者といわれている。1897年(明治30年)に日本清酒の前身「札幌酒造合名会社」を設立。1928年(昭和3年)には業界企業合同の政府要請に応えて8つの企業を合同し、現在の「日本清酒株式会社」になった。

歴史的に日本清酒は北海道を代表する伝統蔵として現在でもその酒造りは卓越したものがある。特に4代目津村杜氏は新潟県の出身。17歳で酒造りに身を投じ、20歳で渡道。1949年(昭和24年)日本清酒に入社。1959年(昭和34年)千歳鶴の杜氏となり千歳鶴王国を築く。津村杜氏の酒造りの際に書き残した越後流「津村メモ」なるものがある。その細かさは見る者を唸らせるほどであり、千歳鶴酒ミュージアムで実物を見ることができる。その卓越した技を2000年(平成12年)から引き継いだのが佐藤杜氏。その後6代目杜氏として就任した北海道初の女性杜氏市澤杜氏を経て、現在は7代目竹花杜氏が陣頭指揮を執る。

そして未来へ

去る2024年(令和6年)12月5日、日本の「伝統的酒造り」がユネスコ無形文化遺産に登録された。酒造りに関わる人たちの喜びの声が広がるなか、日本酒は国内での消費減少も海外では人気が高まっていることもあり、登録を機に酒造りの次世代への継承が滞ることなく行われ、日本酒への関心がさらに高まると期待が集まっている。

同社では、日本酒のさらなる可能性を探り、付加価値の向上に取り組みながら、グローバルな高単価市場への参入を視野に入れている。環境への配慮や地域社会への貢献も惜しむことはない。受け継がれ、進化していく伝統の技。この延々とつながれてきた世界に誇れる酒造りを絶やすことなく未来につなげたいと蔵人たちは力を注いでいる。


  • 千歳鶴 純米 吟風

    北海道産酒造好適米「吟風」を100%使用した純米酒。力強さを感じる喉ごしの良いお酒。クリアな香味の中にはコクがあり、しっかりとした旨みを楽しめる仕上がり。

  • 千歳鶴 純米吟醸 きたしずく

    北海道産酒造好適米「きたしずく」を100%使用した純米吟醸酒。爽やかな香りと瑞々しく心地よい甘みと酸味が印象的です。食中酒としてもオススメ。

  • 千歳鶴 純米大吟醸

    吟味した北海道産米「きたしずく」を贅沢に40%まで磨き上げた純米大吟醸。純米ならではのふくらみのある豊かな味わいと研ぎ澄まされた吟醸香のハーモニーを楽しめる。 

 

◆千歳鶴酒ミュージアム(2024年12月31日より2025年1月2日まで休業)


 

社屋内にある「千歳鶴酒ミュージアム」では蔵元限定酒をはじめ、その場で瓶詰めしてくれる生酒などを販売、芳醇な酒粕の香りの「酒粕ソフトクリーム」も味わえる。営業時間は10:00〜18:00

 

  日本清酒株式会社本社

札幌市中央区南3条東5丁目

〈問い合わせ先〉商品企画部 TEL.011-221-7012

工場見学は事前予約必須で、平日10:00〜16:00(15:30受付終了)、1日1組の団体(8人以上、20人まで)、予約は希望日の1週間前、3ヵ月先まで受け付けている。見学の所要時間は30分前後、料金無料。

 

PAGE TOP